立命館大学国際平和ミュージアム館長
君島 東彦
(きみじま あきひこ 立命館大学国際関係学部教授)
2023年4月に国際平和ミュージアムの館長に就任した者として、わたしなりの抱負を書かせていただきます。周知のように、当ミュージアムは、京都市民による平和のための戦争展の運動の成果と、本郷新のわだつみ像が象徴する立命館大学の戦争協力への痛切な反省という2つの要素が合流して1992年に開館したもので、それ以来、加藤周一氏、安斎育郎氏、高杉巴彦氏、モンテ・カセム氏ら歴代館長のリーダーシップにより今日まで充実した活動を続けてきました。吾郷眞一前館長のもとで始まった第2期リニューアルプロジェクトが進行中であり、現在その最終段階にあります。この時期に館長を引き継いだものとして、まずは9月23日のリニューアルオープンをめざして、リニューアルプロジェクトを完成させることに全力を尽くしたいと考えております。
いまリニューアルの最終段階で、新しい展示の全体像を少しずつ知りつつありますが、現時点でわたしが感じることは、我々はこの平和ミュージアムを東アジアの平和創造の拠点として生かしていくべきではないか、ということです。
当ミュージアムは1992年の開館以来、アジア太平洋戦争の加害と被害、この戦争に抵抗した人々の声、この戦争にともなう責任等についての展示を中心としてきました。これらの要素はリニューアル後の展示においても、拡大・深化していると思います。東アジアの平和を破壊した日本帝国主義を直視し、戦後におけるその克服の努力を見つめ、また、直ちに冷戦・熱戦によって分断された東アジアの状況を伝える展示が続きます。さらに、平和創造の重要なアクターである国際機構や市民社会(NGO)の活動を紹介し、平和創造の出発点となる理念について説明を加えています。
リニューアル以前から東アジアの人々との関係は、当ミュージアムの核心部分でありました。わたし自身が記憶しているかぎりでも、中国の外交官の王毅氏、日本の政治家、河野洋平氏らの来館は重要な出来事であったと思います。日本帝国主義の克服に誠実に取り組む姿勢は、当ミュージアムの良心であるといえます。また、平和創造の方法として、国際機構と市民社会の役割を強調する点は、平和学の考察に立脚しています。
当ミュージアムは京都、関西圏はもちろん、日本各地から来館者を迎えています。これまでも東アジア諸国からの来館者はいましたが、リニューアル後、さらに東アジアを中心として世界各地からの来館者を迎えたいと思います。歴史に誠実に向き合う当ミュージアムの姿勢は、とりわけ東アジアからの来館者に対する重要なメッセージの発信であるといえます。わたしは、当ミュージアムの展示・活動を東アジアの対立・緊張を克服していくための触媒――「修復外交」の手段――として活用できないだろうか、と考えます。日本を含む東アジア諸地域の学生たちがこのミュージアムに集って、歴史和解・戦争予防のためのワークショップを開く。あるいは、立命館大学および他大学で学ぶ東アジアの留学生がミュージアムでスタッフあるいはインターンとして働く等々。
いま東アジアはある意味では危機の状況にあります。東アジアの平和は越境的な市民社会が下からつくっていくものであるとわたしは考えています。当ミュージアムも東アジア市民社会の一員として、東アジアの危機を克服するための役割を果たしたい。新館長としてわたしはそう切望しています。(2023年4月)
(きみじま あきひこ 立命館大学国際関係学部教授)
1958年生まれ。早稲田大学法学部・法学研究科、シカゴ大学ロースクール、ワシントンDCのアメリカン大学大学院国際関係研究科で学ぶ。札幌の北海学園大学法学部教授等を経て、2004年から現職。2016-2017年に日本平和学会会長、2016-2019年に国際関係学部長をつとめた。
専門は憲法学、平和学。憲法平和原理を平和学の視点、NGOの視点、東アジアの文脈でとらえて活かすことを課題とする。2007年から毎年ノーベル平和賞の候補者を推薦している。
共著として、『高等学校 公共』(教育図書、2022年)、『平和をめぐる14の論点――平和研究が問い続けること』(法律文化社、2018年)、『戦争と平和を問いなおす――平和学のフロンティア』(法律文化社、2014年)等。